予算の壁は「共創」で越えられる 「読まれるデータレポート」誕生秘話
- データ活用
- データレポート制作
- 予算制約
- 伴走支援
- 導入事例の概要
- 歴史と自然が調和する日本を代表する観光地・鎌倉市。地元の観光振興を担う公益社団法人鎌倉市観光協会(以下「観光協会」)は、昭和25年の発足以来、観光案内、PR活動、「鎌倉まつり」「鎌倉花火大会」「鎌倉薪能」などのイベントを通じて地域活性化に努めてきました。近年、限られた予算の中、ユーザー目線を意識した工夫や鎌倉らしい視点を盛り込んだユニークな「データレポート」を完成させ、自治体やメディアから注目を集めており、分析屋が伴走支援をさせていただいています。
Contents
導入背景 やりたいことと予算制約とのギャップ
― データ活用において、どのような課題があったのでしょうか?
小室様: 私たちが保有しているデータは以前から多くありました。例えば、観光案内所に来られる方の来訪者数やホームページのアクセス状況の傾向などです。ただ、それらは内部情報として利用するだけで、外部に向けて発信することはほぼありませんでした。もちろん、データをもっと活用したいという気持ちはありましたし、面白いデータがたくさんあることも分かっていました。でも、それをどう形にすればいいのかが分からなかったんです。
一度、試しに私たちが持っているデータを会報誌のような形にまとめて、ホームページに載せてみたことがあります。そうしたら想像以上の反響があって、『もっとこういうデータが見たい』という声が寄せられました。それで初めて、これはしっかり取り組む価値があるなと考えるようになりました。
― コロナ禍で状況がさらに変わったとお聞きました。
小室様: そうなんです。コロナで観光客が激減した時期、メディアからの取材が急増しました。『観光客数の変化を教えてください』とか『小町通りの混雑具合はどうですか?』といった具体的な質問が多く寄せられるようになったんです。それまで私たちは肌感覚でお答えしていましたが、エビデンスに基づいて説明する必要性を強く感じるようになりました。
― ただ、予算面での課題もあったのではないでしょうか?
小室様: その通りです。観光協会のスタッフは少人数で、データ分析と向き合う時間やリソース不足が課題でした。現在はマーケティング担当として3人で対応していますが、当時は予算も人手も限られている状況でした。京都市観光協会さんのように、本格的なデータレポートを作りたいという思いはあったものの、私たちには人や予算の余裕もなく、どうやって自分たちの規模に合った形で実現するかをずっと考えていました。
やりたいことは明確にありましたが、それを予算内でどう要件に落とし込むかが悩みどころでした。そんな時に分析屋さんに相談することを決めたんです。
プロセス① 「予算をかけずどこまでできるか」をすり合わせ
小室様: 分析屋さんとは以前からの知り合いで、一緒にすり合わせて進めていけそうなイメージがありました。まず、予算の制約は一旦置いておいて、こちらのやりたいことを全て伝えるところから始めました。『京都市観光協会さんのような本格的なデータレポートを作りたい』『人流データをリアルタイムで取得したい』『宿泊者数の増減や稼働率を分析したい』など、思いつく限りの要望をお伝えしました。
それに対して、分析屋さんが無料または低価格でできる施策をリスト化して提案してくれました。その中には、条件が合わない場合の代替案なども含まれていて、とても柔軟に対応していただきました。たとえば、定点カメラを設置して人流データを取得する案も出たのですが、予算的に厳しい部分はGoogle検索トレンドの活用でカバーする形に落ち着きました。
小室様: このプロセスで特に感じたのは、予算ありきの主従関係ではなく、お互いが知恵を出し合う『共創』の形でプロジェクトを進められたことです。通常であれば、予算内でできることを提示されて終わりになるところ、分析屋さんは低予算や無料で可能な施策を積極的に提案してくれました。私たちも、自分たちが提供できるウェブサイト内のデータなどを提案しながら、プロジェクト全体を形にしていきました。
本来なら予算的に難しいと思える要望も、ディスカッションを重ねる中で新たな方法が見つかることが多かったです。特に諦めずに話し合いを続ける姿勢があったことで、柔軟な解決策が次々と生まれたのだと思います。
プロセス② 「データ分析以外の部分」もすり合わせ
― その他、分析屋でよかった点は?
有馬様: 今回、テーマとして掲げていたのは『読みたくなるデータレポート』を作ることでした。その点でも、分析屋さんには共創・伴走いただきました。データレポートの読者には、自治体やメディア、学生のほか、観光協会の会員である事業主様も含まれるのですが、事業主様の中にはデータに慣れていない方も多くいらっしゃいます。
自治体が作る数字のデータは、役立つデータが詰まっているものの、正直なところ味気なく、積極的に読みたくなるものではないというのが通例でした。そこで、どうすればもっと親しみやすく、読みたくなる形にできるかを重視しました。
最初は内容が固い印象だったのですが、分析屋さんとすり合わせを重ねる中で、徐々に読み手の視点を取り入れる形に進化していきました。たとえば、重要なデータにハイライトを入れる工夫や、「そのデータをどう読むのか」といった背景やストーリー性を持たせる構成を取り入れました。ほかにも、人流データと天気を並べて示したり、先月比だけではなく前年同月比の視点や日本全体との傾向比較の視点を盛り込むなど。結果として、以前よりも多くの方にデータが親しみやすいものになったと感じています。
▼before (取り組みはじめの頃) ▼ https://www.trip-kamakura.com/uploaded/attachment/1566.pdf
― そのプロセスで、分析屋からの提案はどのようなものだったのでしょうか?
小室様: 分析屋さんからは、データの見せ方だけでなく、掲載する情報の提案もいただきました。たとえば『こういうデータを使えば見せたい内容を補強できますよ』といった具体的なアイデアをいただくことが多く、非常に助かりました。ただ、その一方で、鎌倉の観光にまつわる知識や経験がないと難しい部分も多かったです。特に、コメントに関してはその月の鎌倉のイベントや、地域で話題になった出来事、例年の傾向などを把握していないと書くのが難しい内容が多く、観光協会として何度もフィードバックをさせていただきました。その都度、改良を重ねて対応していただいたのは非常にありがたかったです。
有馬様: 1年ほど取り組む中で、かなり感覚がすり合ってきたと思います。要望が多い中でも、きちんと対応してくれる姿勢に感謝していますし、結果として読者に寄り添ったデータレポートを形にできたと感じています。
小室様: データの見せ方や内容部分は、まさに『共創』が必要な領域だったと思います。共に作り上げるプロセスそのものが、観光協会にとっても学びの多い経験になりました。おかげさまで、データがただの数字として並んでいるだけでなく、ストーリーとして伝わる形になったのは非常に大きな成果だったと感じています。
導入後・成果 大反響!読み手ライクのデータレポート完成
― あたらしいデータレポート、どのような反響がありましたか?
有馬様: 完成したデータレポートは、ページ数こそ少ないものの『見たくなる』内容になりました。私たちが目標としていた京都市のレポートとはまた違ったものですが、結果的にそれが良かったのではないかと思っています。
小室様: 自治体やメディアからの問い合わせが明らかに増えました。特に報道を見る限り、私たちのレポートがヒントとして活用されている印象があります。他の自治体からもヒアリングを受ける機会が増え、『読み手目線がしっかり反映されている』との評価をいただいています。
― 本取り組みの最大のポイントは?
小室様: 予算が限られていたことが、逆に功を奏した部分もあるのではないかと感じています。マーケティングはお金をかけようと思えばいくらでもかけられるものですが、その結果、情報が増えすぎてまとめにくくなることもあります。現代では、むしろ情報を絞り込み、分かりやすく伝えることが重要だと実感しています。今回のレポートはその点で評価されたのではないでしょうか。特に、データを単なる数字としてではなく、ストーリーとして伝える工夫が、情報過多の中で注目を集める要因になったと思います。
ただ、反響が増えた分、手が抜けなくなりました(笑)。味気ないデータをただ置いていただけでは、こうした反響は得られなかったと思います。大変ではありますが、やりがいを感じています。特に、メディアや自治体だけでなく、当協会の会員様からも『見やすい』『会議資料として活用している』『次回も楽しみにしている』という声をいただけるようになったのは本当に嬉しいですね。
― 今後の展望について教えてください。
有馬様: 今後もデータレポートを通じて、鎌倉観光に関わる皆様にとって、より役立つデータを提供していきたいと思っています。そのために、これからもトライアンドエラーを繰り返しながら、データの見せ方や伝わり方にさらにこだわっていきたいです。我々は観光協会ですので、見る人をワクワクさせる要素が非常に重要だと考えていて、今後は、よりリアルタイムで動的なトレンドデータ等を提供できる仕組み作りにも挑戦したいと考えています。分析屋さんにはこれからも引き続き伴走いただき、さらに良いレポートを作り上げていきたいです。
まとめ 「主従関係」の限界 「共創関係」の可能性
今回のインタビューでは、鎌倉市観光協会が抱えていた課題と、それを分析屋がどのように解決してきたかについてお話を伺いました。限られた予算の中で、単なるデータ分析の提供にとどまらず、「共創」の姿勢で顧客ニーズを超えた提案を実現してきた点が印象的でした。
「主従関係 (対価に見合った労働を提供する関係性)」であれば予算内で可能な範囲に留まる提案が一般的ですが、分析屋と観光協会はお互いに意見を出し合い、予算以上の価値を生み出す「共創関係」を築いていました。また、「意見を言いやすい雰囲気」が生まれたことで、さらに質の高い成果を出せた点も特筆すべきポイントです。
分析屋が掲げる「おもてなし分析」は、こうした顧客との密なコミュニケーションと共創の精神を軸にしています。これからも鎌倉市観光協会と分析屋が協力し、観光地としての魅力をさらに引き出していく姿が楽しみです。