DXを推進した巨大ビニールプール
- PowerBI運用スキル
- ダッシュボード構築
- データ一元管理
- 導入事例の概要
- 福島県楢葉町では、2011年の原発事故により全町避難が発生し、一時は人口がゼロになりました。その後の帰還政策により約半数の住民が戻ってきましたが、その大多数が高齢者です。このような状況で、楢葉町は総務省の「地域活性化起業人」や「地域おこし協力隊」制度を活用し、IT企業や人材を誘致することで町のDX推進を図っています。分析屋はこの取り組みの一環として、楢葉町から「地域活性化起業人」の任命を受け、現地でDX支援を行うIT企業の設立を支援し、町内の役場・民間企業・住民へのサービス提供を通じた地域貢献活動に取り組んでいます。
Contents
課題 企業よりもDX推進のハードルが高い環境
まず、楢葉町の課題は、IT人材やIT企業がほぼ存在せず、地域社会が全国的なDXの流れに乗ることが難しい状況にあることです。
そして、住民の多くが高齢であること。新しい技術に対して馴染みが薄い方々が多い中、DXを進めていくことのハードルの高さ。特に、地域には長年のつながりを大切にする文化が根付いており、新しい取り組みを進めるためには、まず住民との密接な関係づくりが求められます。
このような背景のもと、住民に寄り添い、共感を得ながらDX支援を進めることがこのプロジェクトの重要なポイントでした。
プロセス① まずは会社作りから
プロジェクトの第一歩は、町内にIT企業を設立し、住民や町の企業に無償でDX支援を提供する体制を整えることでした。地域活性化起業人が現地担当として会社設立を支援しつつ、オフィス契約から会社登記、採用活動、社内制度の整備なども担当しました。
また、地域おこし協力隊員として採用された社員は全員がIT未経験者であるため、地域活性化起業人が業務教育やマネジメントも行い、ITスキルやDX意識を高めるための指導や業務の伴走支援を続けています。
プロセス② 巨大プール、バーテンダー etc. DX推進は関係性作りが肝
DX推進の前に、まずは地域の文化に溶け込み、住民との信頼関係を築くことが最優先でした。
まずは地元住民との接点を増やすために、地区のお祭りに参加して御神輿を担いだり、現地に設立した会社の社員と共に巨大ビニールプールを設置して子供たちが夏場に遊べる場所を創出するためのイベントを開催したりと、地域貢献活動を積極的に行いました。また、メンバーの中には元バーテンダーの経歴を持つ者もおり、イベントごとにバーテンダーとしてカクテルを振舞ったりするなど、住民に親しみを感じてもらえるよう、業務外でも住民との関係を築く努力を重ねました。
こうした活動を通じて、町内のキーマンたちとのつながりも生まれ、住民からの信頼が日に日に深まっていきました。DX推進の前段階として築いたこの信頼が、町内での活動を円滑に進めるための大きな基盤となりました。
プロセス③ IT用語を使わず簡単な言葉で
実際にDX推進に取り組む段階では、ITやデジタルに不慣れな住民や企業がスムーズに活用できるよう、難解なIT用語は避け、簡単な言葉で説明を行いました。
例えば、町の役場に対してはExcelマクロを用いた「入札事業者チェック」自動化を提案し、手作業で行っていた確認業務の時間を大幅に短縮。また、地元企業向けには給与計算の自動化ツールを導入し、限られた人員でも業務が効率化できる体制づくりのサポートを行いました。
DX推進にあたり、住民の立場に立ってわかりやすい説明や提案を行うことで、ITツール導入に対する心理的なハードルを下げ、自然と新しい仕組みを受け入れてもらえるようにしました。
成果 広げようとせずとも広がっていく流れができた
プロジェクトを通じ、多くの住民や町内企業がITを意識するようになってきており、業務効率化などDX化への意識が高まっています。DX支援実施後は、3日かかっていた作業が3時間で完了するなど、具体的な成果が住民の間でも評価されるようになり、次第に頼られる存在となりました。また、防犯カメラの設置相談などITとは関係のないことでも声をかけられるようになったり、住民と飲みに行くほど親しい関係を築いています。
評判が広まると共に、新たな依頼も増加し、プロジェクトが町内に根付く形でDX支援が継続的に求められるようになりました。このプロジェクトは、DX推進にはまず信頼構築が重要であるという好例となり、今後他の地域や企業でも参考にされることでしょう。
まとめ DX・データ活用推進の一丁目一番地は「関係構築」
分析屋は単なるデータ分析企業としての役割を超え、顧客や現場の状況に合わせて本当に必要なことを考え、取り組む姿勢に「おもてなし」を体現しています。ITやデータ分析を浸透させるうえで、単に技術や知識を教えるだけでなく、それを受け入れやすい環境づくりや信頼関係の構築が不可欠であると考えています。そのため、私たちは楢葉町での会社設立や住民との関係構築を「必要な仕事」と捉え、御神輿の担ぎ手やイベントの運営まで積極的に取り組みました。
このような姿勢は、DXやデータ分析を推進するために、単に依頼事項を遂行するのではなく、ゴール達成に向けた+αを見出すことにあります。地域活性化という文脈での取り組みですが、企業内でのDX推進やデータ活用促進にも通じる部分が多くあります。多くの企業が現場の支持を得られずDXの推進が進まないと悩んでいるように、私たちのアプローチが示すのは、現場の共感と協力を得るための「共創関係の創造力」こそが重要な要素であることです。
楢葉町で築いたような信頼と協力の基盤があってこそ、真にITやデータ分析が推進していくモノと考えています。私たちは、このように現場と共に歩み、共創の精神でゴールを目指すパートナーであり続けます。